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Vol.4 DAISUKE ICHIMIYA

Vol.4 DAISUKE ICHIMIYA

 

遊びが、生きる力になる。
 

 

 

前回の「Back to Nature」で彼が語った、“自然が自分を強くする”──あの言葉から4年。
一宮大介は、再び自然と共に生き、登るために米国コロラド州へと向かった。
今の彼が見つめているのは、強さの先にある“豊かさ”。

登ることを遊びや楽しみ方と捉え、そこから生まれる充実感こそが、人生の豊かさにつながっていく。

 

再び自然の中へ

 

──なぜコロラドを選んだんですか?

一宮:クライマーにとって理想的なんです。自然が壮大で、岩の色や質、形が全然違う。マグマが早く固まった形状なんだろうなって思うんです。

 

赤茶けた岩肌、硬質な花崗岩、乾いた空気。
その一つひとつが、彼にとって“登る理由”になる。
街から少し離れるだけで、豊かで広大な自然に触れられる。
日常と自然が地続きで、暮らしとクライミングが混ざり合う場所。

それが、彼がコロラドを選んだ理由だった。

 

 

ボルダーハント ── 未知の岩を探すという“遊び”

地図にも載っていない岩を探すために、歩き、見つけ、触れて、登る。
ただ、誰も登っていない岩だけを求めているわけではない。

 

一宮:トポ(探索ガイド)とかには興味がないんですよね。そういう課題との出会い方じゃなくて、自分の足で探すっていうところに魅力を感じるんです。初登したいから探す、というよりは、誰かが登っててもいい。自分の足で見つけて、自分の感覚で触れることに意味があると思うんです。
そういうのが好きなんですよ。“自分の足で”っていうのが、結局いちばん面白い。


挑戦というより、探究。
そのプロセスの中で、自然とつながる喜びが生まれる。

 

山で暮らすということ

 

テントを張り、火を起こし、ご飯を炊く。
夜は冷え込み、焚き火の暖かさがありがたい。

 

一宮:ばあちゃん家が山奥だったから、その時の延長線のような感覚。山に来てこういうことをすると思い出すんですよね。火の匂いや煙の匂いが懐かしいです。
 人の強さって、“慣れ”みたいなもんだと思います。寒さに対してもそうだし、寝る環境もそう。一番基礎的なところで強くなれていれば、何か起きた時にも対応しやすいと思うんです。だから山で寝る時は基本的にbivy(ビバークサック)を使っています。自分が舐めただけ、自然は跳ね返してくる。厳しいですね。父親みたいな感じ。


時には寒さを耐え凌ぐため、寝袋に加えザックに足を入れて寝ることもあった。
自然の中で暮らしながら、自分のリズムを取り戻す。
それが、登るための“基礎”になっている。
 

 



 

ベアフットクライミングが教えてくれたこと


──ベアフットクライミングとの出会いは?

 一宮:2021年のスイスでシャルル・アルベール(Charles Albert)というベアフットクライマーと寝食をともにしながら、一緒に登った時です。その姿が衝撃的で、自分もやってみようと思い始めました。最初は、強くなるためや楽しみ方の一つくらいにしか思っていなかったんです。


スイスから帰国してすぐに、Vivobarefootと出会った。それが一宮の意識を変えた。

一宮:現代の社会で起きている“足の問題”を知って、これは自分の中で、ひとつの使命なんじゃないかと感じました。クライマーとしての自分なら、人に伝えやすい形でメッセージを届けられるかもしれない。自分にできることの一つとして、ベアフットクライミングを自分のスタイルとして続けていきたい。そう思うようになりました。


足裏で感じる温度、ザラつき、湿度、岩の生命力。
ベアフットクライミングは単なるスタイルではなく、自然と自分の境界をなくす手段になった。


一宮:
外岩で登るとき、感覚的に登るって絶対必要なんです。自然の中にいる時の感覚とか嗅覚みたいなものが、自分の成功に繋げてくれそうな気がします。

 

感覚が導く成長

──クライミングって、登れたかどうか以外に、どこに価値があると思いますか?

一宮:登れれば正解。でも本当の“強さ”は、そのプロセスの中にあると思うんです。トライアンドエラーを繰り返して、感覚的に学んでいく。それが一番早いし、自分には合っていると感じます。


自然と向き合うことは、自分と向き合うこと。

その“感覚”こそが、彼の成長を導いている。


 

メガトロンを目標にした理由

それは、ただ難しい課題だからではない。

メガトロン(V17、世界最難課題のひとつ)は、一宮の友人であるChad Greedy(チャド・グリーディー)が見つけ、形にしたラインを、同じく仲間のShawn Raboutou(ショーン・ラブトゥ)が初登したという、友情の延長線上に生まれた課題だ。

一宮:正直、V17だったら他にもあるし、みんなやってるじゃないですか。でも、V17をやりたいっていうよりは、それ以外のこともやりたかった。


ボルダーハントやツアーという時間の使い方、その意味を考えたとき、舞台はコロラドで、目標はメガトロンだった。

結果よりも、そのプロセスごと引き受けられる課題だったからだ。

 

遊びに本気になるということ

一宮:正直、僕がV17を登っても社会が変わるわけじゃないじゃないですか。でも、遊びに本気になることが好きなんです。(メガトロンを登れるかどうかを)気にしないのが一番だと思っています。
 本気でやるのは前提ですけど、それがプレッシャーになってしまったら意味がない。昨日今日始めて結果は出ないし、結果がどうであれ、プロセスの中で強くなっていくはずだから。

 

 

自由な発想が、クライミングを進化させる


足元には、もうひとつの挑戦がある。

Moonlightgear Equipmentが開発を進めている、親指だけを覆う「指サック」。
ベアフットとシューズの中間にあるミニマルなクライミング用ギアだ。

 

一宮:最初は面白い発想だなと思いました。痛くないし、ベアフットの次に一番UL(ウルトラライト)な気がします。


彼がこのギアに惹かれたのは、機能性よりも思想だった。
Vivobarefootの理念──「自然とのつながりを取り戻す」という考え方は、人が本来持つ感覚を信じ、過剰な機能に頼らないという姿勢にある。
その思想は、フィールドは違えど、Moonlightgear Equipmentのものづくりにも確かに息づいている。

先人たちが切り拓いてきた道に敬意を払いながら、既成概念を疑い、試行錯誤と失敗を重ね、その先にある“本物の道”を探り続ける。
過剰な機能を削ぎ落とし、人が本来持つ感覚と向き合うためのミニマルな道具を、自分たちの手で形にしている。

それは、Vivobarefootがシューズを通して問い続けてきた「自然と人との関係」を、ギアという別の形で表現し続けているにほかならない。

一宮:Vivoの思想やコンセプトの影響を受けている部分は大きいと思います。自然との対話とか、感覚を取り戻すという意識が、自分の中にも根付いていて、仲間たちも同じ方向を見ている。ブランドというより、思想でつながっている感覚です。


遊びから生まれる発想が、新しいクライミングをつくる。
それが、一宮の“次の挑戦”を後押ししている。


感覚を共有するということ

 

一宮:Vivoのいいところは、“感覚”を共有できる仲間がいること。裸足、暮らし、自然、そういう感覚を分かち合える人たちがいる。だから僕も発信を続けたいし、これからも一緒に共有していきたいです。

クライミングは、ただ登るための技術ではない。
感覚を磨き、自然と自分の距離を近づけるための“遊び”だ。

感じて、遊んで、自然とつながる。
その先にあるのは、強さではなく“豊かさ”。

一宮大介の“Back to Nature”は、今も静かに進化を続けている。

 

 

PROFILE

一宮大介

Daisuke Ichimiya

1993年、大分県生まれ。2017年、アメリカ合衆国コロラド州にて難易度V16の課題「Creature from the Black Lagoon」を完登し、その挑戦が評価されピオレドール・アジアにノミネートされる。国内では、「緑の妖精(La Fée Verte)」8c(奈良・御手洗)、「末法」8c(京都・笠置)といった課題を初登している。

フィールドや形式にとらわれず、ボルダリングやマルチピッチなど多様なクライミングに取り組む一方、2021年からはベアフットクライミングというスタイルを実践。ベアフットを通して身体の感覚と向き合いながら、クライミングの原点を探求している。

 

インタビュアー・文:Hiroki Hamada / 写真・動画:Kazuma Komura, Hiroki Hamada




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